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世界における繊維学会の立ち位置
Position of The Society of Fiber Science and Technology, Japan in the World
目まぐるしく変化する昨今、繊維学会の活性化と持続的な発展のため、今後どのようにアクションを起こしてかなければならないか、国際交流の視点から考えてみた。繊維学会の定款には、「繊維に関連ある学理とその応用の進歩普及をはかり、もって、学術、文化及び産業の発展に寄与する(第4条)」ための具体的な事業として、(1)研究発表会及び学術講演会などの開催、(2)学会誌及び学術図書の刊行・配布、(3)国内外の関連団体及び産業界との協力及び連携、(4)繊維に関する研究の奨励及び研究業績の表彰、(5)繊維に関する研究及び調査を、国内外において行うものと記されている(第5条抜粋)。繊維学会の国際交流の現状を分析すると、(1)についてはAsianTextileConference (ATC)への理事国として定期的な参加や開催、創立70周年記念行事InternationalSymposiumonFiberScienceandTechnology2014の開催、TheFiberSociety'sSpringConference2018の開催などが挙げられる。(2)では、学術誌JournalofFiberScienceandTechnologyのオンライン化、High-PerformanceandSpecialtyFibersの刊行などがある。(3)については、日本国およびフランス国それぞれの官民で構成される繊維クラスター間の共同開拓のサポートや、海外企業の新技術・新製品・研究開発動向を日本語で解説した「海外ニュースレター」の会員への発信がある。(4)においては、国内の大学に在籍する外国籍研究者や留学生への表彰が、(5)については、ITMAやドルンビルン国際化繊会議の報告記などが相当する。以上のように、諸先輩方のご尽力により繊維学会の国際活動はかなり活発であるといえる。
では、今後はどのような方向に向かって活動すればよいのであろう。情報通信技術の飛躍的な向上により地理的な距離が縮まるなか、二国間または数か国間の国際交流から、多国間によるグローバル交流への移行が急務と筆者は考える。知識や技術の流出、理解の相違による衝突、文化の消滅など危惧することはあるものの、それ以上に新しい切り口の発見、地球環境問題の再認識、弱みの強化、新分野の融合による活動分野の広がりなど、繊維学会員の利益にもつながると期待されるこのグローバル交流への近道は、ATCの母体で7か国の繊維系非営利団体と1大学からなるアジア繊維学会連合(TheFederationofAsianProfessionalTextileAssociation:FAPTA)を世界規模に拡充し、その活動を充実させることであろう。欧州のように狭域に多くの国が隣接する環境では人の往来が簡単であることもあり、連盟・連合の体制をとる繊維系団体は多々見られるが、大概は国を超えての企業や大学あるいは個人の集まりで、FAPTAのような学会の連合は見当あたらずその存在意義は大きい。具体的な活動としては、基本前述の(1)~(5)を学会連合として実施すればよく、各学会にとっては二足の草鞋を履くような負荷が懸念されるが、そこは品質改良を望みながらも情報通信技術や機械翻訳などを積極的に活用することで軽減すればよい。
長きに亘ってアジアの繊維技術革新の一端をけん引してきた繊維学会がその主導力を再び発揮し、繊維の世界を一つにすることで学会本体も成長することを期待する。対国関係から世界規模でのパートナーへ、繊維学会の世界での次なる立ち位置ではないだろうか。門戸を開き様々な国とオープンかつ密に交流することで、日本の繊維業界の活性化を図ることができれば二重に嬉しい。2022年3月には日本でのATC開催が検討されており、国際担当理事としてFAPTAで意見交換ができればと思う。
奥林 里子 (京都工芸繊維大学 教授)
*繊維学会誌2021年5月号、時評より
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