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化繊産業の課題と化繊協会の取り組み
Challenges of Chemical Fiber Industry and Activities of Japan Chemical Fibers Association
日本の化繊業界は、高機能・高性能繊維を中心とした先端繊維素材の開発と普及などを通じて、社会の課題解決に貢献する新しい価値の創出を目指している。近年では、環境問題やサステナビリティに関する社会的要請が高まっており、化繊産業が自らの社会的責任を果たすことが、以前にも増して重要な課題となっている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、マスク、医療用ガウン、防護服、衛生ワイパーなど、医療、衛生用途における化繊産業の素材供給の重要性が一層増している。
このような状況下、日本化学繊維協会では今後5年間(2021~2025年度)の「中期活動方針2025」を策定した。日本の化繊産業を取り巻く環境変化を分析し、今後の主な課題を「持続可能な社会の実現への貢献」、「競争力の基盤維持・強化」の2点ととらえた。それを踏まえ、今後の協会活動の方向性として、①サステナビリティの推進、②競争力の基盤維持、③情報発信の拡充、の3点を設定した。
この中で、サステナビリティの推進では、植物由来繊維など持続可能な社会の実現に貢献する繊維の開発・普及、資源循環フローの実現、3Rの普及・拡大などを目指し、標準化、ラベル、公共調達制度の活用や行政等への働きかけを行う。また、マイクロプラスチック問題への対応、環境負荷物質管理、カーボンニュートラル対応など、製造・加工工程および製品による環境負荷の低減を図るなどを活動の方向性と定めている。
この一環として化繊協会は2021年、「サステナビリティ対応方針」および「カーボンニュートラルに向けた取り組み」をまとめ公表した。
前者ではサステナビリティ対応を大きく3つに分け、第1に資源循環の実現に向けて、回収PETボトルのリサイクル、繊維製品のリサイクル、植物由来原料の活用を進める。第2に、環境負荷の低減として、CO2排出削減、海洋プラスチック問題への対応、適切な化学物質管理等に取り組む。第3に持続可能な社会の実現に貢献する化学繊維製品の拡大として、ポストコロナ時代を見据えた医療・衛生用途での貢献拡大、高機能・高性能繊維の普及・拡大に向けた標準化などを推進する方針を掲げている。
後者では、カーボンニュートラルに対する協会体制および取組み状況をまとめ、原料、生産活動、製品の各段階におけるカーボンニュートラルへの取組みを整理している。また政府への要望として、①低炭素化を着実に進めていくための仕組みの構築、②低炭素化の技術開発支援および導入支援、③脱炭素化エネルギーの安定・安価な供給を挙げている。
日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言は、極めて高い目標であるが、日本の化学繊維産業が持続可能な社会の実現と国際競争力の維持を両立するためにも重要な政策である。化学繊維産業はその実現に向けて、「守り」と「攻め」の両面から積極的に取り組んでいく。即ち、「守り」では、①燃料転換、②再生可能エネルギーや革新的省エネ/CO2排出削減技術の活用、③プロセスの高度化(スマートファクトリー化)などの取り組みを加速するほか、「攻め」では、①リサイクル繊維や植物由来繊維の開発・拡大、②軽量化、長寿命化、高効率化等を実現する製品、③再生可能エネルギーや新エネルギーに寄与する製品などの提供を通して貢献する。これらの対策によりカーボンニュートラルの達成に寄与する。
社会、経済がグローバル化しており、サステナブルな化繊産業を実現するには、世界的な連携が必要である。
アジアでは主要9か国・地域が参加する、アジア化繊産業会議が2年に1度開催されている。2019年4月のインドネシア・バリでの第12回会議では、マイクロプラスチック問題をはじめ、サステナビリティに関し活発な議論がなされ、アジアの化繊産業にとってもサステナビリティへの対応が重要であることが確認された。
2021年4月には、日本が主催国となりサステナビリティをテーマに第13回会議パートⅠが開催された。コロナ禍からオンラインでの開催となったが、日本が基調講演を行い、残る8か国・地域がそれぞれの取組みについて報告を行った。会議ではアジア化繊産業のサステナビリティに関するポジションペーパー「持続可能な社会の実現を支えるアジアの化学繊維産業」が採択され、会議終了後、世界に向けて対外発表された。2022年4月には同じく日本主催で第13回会議パートⅡを開催する予定となっており、サステナビリティ対応に関してさらなる深掘りをする予定である。
食糧供給の関係で耕作地が限られ、天然繊維の生産拡大には制約がある。今後の人口増・経済成長にともなう世界の繊維需要の拡大を担うのは化学繊維である。アジアは世界の9割の化学繊維を製造しており、供給責任は重大である。持続可能なより良い社会の実現のために、次回のアジア化繊産業会議では、日本が主催国として会議をリードすることで、積極的に議論し、今後の取組みの充実を図りたい。
化学繊維は、原料から製品までのサプライチェーンが長く、そのグローバル化が進んでいる。用途分野も幅広く、さまざまなユーザーに支えられている産業である。サステナビリティの実現は化繊メーカーのみでは不可能であり、内外の関係産業、消費者、アカデミア、関係省庁や公的機関など広く協力を得て、持続可能な産業の実現を図っていく所存である。引き続きのご理解・ご協力をお願いしたい。
竹内 郁夫 (日本化学繊維協会 会長)
*繊維学会誌2021年12月号、時評より
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