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変えるべきことと変えざるべきこと
Grace to Accept with Serenity the Things That Cannot be Changed, Courage to Change the Things Which Should be Changed
繊維学会会員の皆様、あけましておめでとうございます。新年を迎えるにあたり、会員の皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。昨年の年初の時評では2021年を事態の収束の年とし、皆様との再会を祈念いたしました。ポストコロナに対する最初のアクションとして位置付けていたAsian Textile Conference-16は残念ながらオンライン開催となりましたが、1月終わりの繊維技術講座、6月の年次大会をハイブリッド形式で開催する運びとなり、オンサイトのイベント再開に向け、喜ばしい気持ちで一杯でございます。オンラインのメリットを活かしつつ対面での可能性も探り、最適化を図る作業が当分続くこととは思いますが、今後の様々なイベント開催に向け、繊維学会の底力というべき、運営にコミットいただける企画委員や実行委員、参加する会員の皆様及び事務局が強力なタッグを組み、成功裏に実施されることを確信しております。
さて、学会誌、学会ホームページ等で周知させていただいておりますように、繊維系三学会の会長、副会長、事務局長からなる統合検討会議では、統合に向けた議論を重ねております。本学会としても統合ということになりますと、改革という次元を超越したかつてない大きな変化を経験することになります。議論の中で忘れてはいけないことを肝に銘じるべく、大学人として変化を余儀なくされてきた時代を振り返って、「改革時の心構え」について愚考したいと思います。
大学改革の出発点は、国立大学も文部科学省さえも反対していた国立大学法人化が大きな節目であり、エビデンスの欠如した「教育・研究は大事だが、今の日本の大学はだめだ」という風潮の恣意的な醸成にあったように思います。経常費の補助に経営が依存しているという背景と相まって、改革の実態は、変化に対して苦手意識のある私たち「ゆでガエル世代」はもちろんのこと、若い世代にとっても、受け入れに抵抗のある内容であったかもしれません。欧米システムの焼き直しのような改革課題が要請され、「対応」、「評価」、「補助金(時限付)」というサイクルにより、大学人が疲弊してしまっております。さらにトップダウン的な運営(経営)が是とされ、その結果、組織の長は「教育・研究は大事だが、この大学はだめだ」といって現状否定から始まるため、現場は混乱を極める場合が多々あると伺います。敢えて言わせていただくと、このようなよろしくない状況からの学びは、「改革せよ」という同調圧力の中で、決して思考停止になってはいけない、という戒めかもしれません。そして学生諸氏の立場から、数十年という長いスパンで愛校心が醸成していくような大学となるか否かを、アクションの是非を問う際の判断基準にすることが重要と考えます。
随分と話が本質からそれましたが、学会の改革、変革に対しても同じことがあてはまるのではないでしょうか。会員の皆様が、喜々としてイベントに参加し、愛着を持って運営にコミットしたいと思うような活気に溢れた学会を皆で作り上げていくことが理想です。そしてなにより改革に際し、大学改革のように思考停止に陥らず「不易流行」を意識して議論を進めることができればと考えます。「不易流行」とは、「不変の真理を知らなければ基礎が確立せず、変化を知らなければ新たな進展がない」という、松尾芭蕉が提唱したとされる理念です。同じように米国でも神学者ラインホールド・ニーバーの「神よ、変えることのできるものを変える勇気と、変えることのできないものを受け入れる冷静さと、そして両者を識別する知恵をわれらに与えたまえ」という名言があります。「変えるべきことと変えざるべきこと」をしっかりと議論し、その結果として、我が国の繊維業界を学理の面からリードし、国際的にも高いポジションを占める学術団体の構築を願うばかりです。「社会課題の解決のためのアクション」が、学会の重要なミッションではありますが、もう一歩踏み込んで、繊維に関連するあらゆる分野の研究者・技術者の意見を提言として集約し、国内外に向けて発信する「モノ言う学会」としての機能も期待されると考えます。
末筆になりますが、今年一年が会員の皆様にとっても、繊維学会にとっても記憶にも記録にも残るような実りある輝かしい一年となりますことを祈念いたします。
荻野 賢司(東京農工大学 教授)
*繊維学会誌2022年1月号、時評より
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