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繊維産業 歴史に学び新たな発展を
Inspired by History to Induce Future Growth of Fiber Industry
2013(平成25)年9月~2022年1月までの間、本学会誌に「技術が支えた日本の繊維産業-生産・販売・商品開発の歩み」をタイトルにした連載を投稿、その回数は100回に及んだ。長期連載になったが、それでも触れられなかった繊維分野もある。
繊研新聞社から京都工芸繊維大学に籍を移す中、蓄積してきた繊維の歴史に関する諸資料は、一部しか活用できなかった。それだけ繊維は長い歴史、幅広い領域に及ぶ産業である。
繊維の歴史を振り返る中、繊維産業について改めて考えた。羅列すると、
- 繊維は人間の生活に欠かせない衣食住を支える基幹産業。
- 近代国家建設の先駆的産業であり、その後の数々の産業育成に大きな影響。
- 繊維の発明、改良されてきた技術は、他産業で応用、新産業を創出。
- スーパー繊維など新たな発明、改良で、新領域を開拓。
- 原料、糸綿、織編物、染色加工、二次製品の製造販売から小売りまでの幅広い産業。
- 学問領域は化学、物理、生物、感性工学、家政、デザイン、芸術、心理学、農学、医学、情報、気象、環境、土木、建築、海洋、資源、地球科学、人間科学、統計学など極めて幅広い。
- 繊維産業の太宗は先進国から雁行的に移行、発展途上国の産業発展に繋がる産業。
- 最も歴史がある産業であり、現在も世界的には成長産業。
日本で衰退している繊維産業は、アパレル(衣料品)向けの糸綿、織物、染色加工、縫製の国内生産の分野である。視点をアパレル以外、あるいは海外に向けると、依然力強い産業である。発展の可能性は高い。
繊維技術で新産業育成
繊維技術が新たな産業を創出してきた歴史は、輝かしい歴史である。とくに合繊技術は高分子→紡糸→紡織編→染色加工→縫製などの製造工程で各種の技術が開発されてきた。この工程の諸技術は応用され、新製品開発、用途開拓につながり、新産業も構築してきた。代表的な例をあげておく(以下は日本化学繊維協会発刊の「繊維ハンドブック」からの抜粋)
- 高分子=超吸水繊維(生理用品)、感光性材料(印刷板)、耐熱性材料、エンジニアリングプラスチック、接着材(磁気記録テープ)
- 高分子・紡糸=医療用材料(縫合糸・人工血管・皮膚・腎臓・心臓・肺・歯・骨)、合成紙、光ファイバー(光通信・光学部品)、フィルム(包装材料・センサー類)、分離膜(ウルトラフィルター・逆浸透膜、機能分離膜、人工透析機)
- 紡糸=炭素繊維(航空機構造材・スポーツ用品)、金属繊維(アモルフェス・金属繊維・耐熱工業用ベルト・無塵衣)、セラミックス繊維、ガラス繊維(巨大空気膜材)
- 紡糸・紡織編→繊維強化複合材料(FRP・FRM・FRC)、スパンボンド(ジオテキスタイル)、人工皮革
(衣料・靴・カバン) - 染色加工=フィルム染色、プラスチック染色、プリント回路、コーティング(カラー写真、磁気、記憶材料)
合繊技術は「広くハイテク産業の土台となって社会に貢献」している。繊維企業の社史にも同様に自社の繊維技術で新たな事業を創出してきた例が数多く紹介されている、これが経営多角化に繋がり、繊維は縮小しても成長してきた企業は少なくない。
新技術利用で新事業創出
繊維企業も新たな発明、他産業で発展してきた技術、ノウハウを学び、採り入れてきた。産業革命以来の機械装置、コンピュータ―、IT、AI、ナノ、バイオ、ロボット、IoTなど。繊維産業を広義に見てアパレル、小売店まで広げると通信、配達、映像、輸送手段、交通・道路網などを利用し、新たな事業を創出してきた例は数多い。カタログ販売、テレビショッピング、ネット販売、郊外紳士服・カジュアル専門店、ショッピングセンター、コンビニなどだ。これらの新産業は古い産業を駆逐してきた。
トヨタ自動車が手掛けているウーブン・シティ(名称は祖業の自動織機由来の「織れた」から名付けた)、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に乗っかるアパレル、産業繊維も今後、出現してくるものと思われる。
天の時、地の利、人の和
繊維産業発展の起点になった紡績業は、事業多角化へ織物、ニット、染色加工へと業容を広げてきた。さらにアパレル製品などに進出してきた。合繊業は産業資材、ハイテク産業にも広げた。織物業はニット、染色加工、縫製業などと垂直・水平連携、新たな発展を追求してきた。さらに繊維以外の異業種連携でも新商品、新業態を生み出し、事業領域を拡張してきた。
繊維産業の歴史から学ぶことは、祖業、自社の得意技を強くする一方、常に幅広い領域の他者から学び、自らの領域を広げ、新たな発展を目指してきたことである。ダーウィンの名言かどうかの真偽はともかく「生き残るものは最も変化に対応したもの」と言われる。発展し、変化してきたものが、新領域、新産業を生み出してきたことは確かである。最近、勢いが衰えている日本。改めて歴史に学び、産官学あげて新たな発展への挑戦に期待したい。世界各国で進められている「ニアショアリング」(消費地に近い場所への事業、生産移転)がコロナ禍で加速している。逆風下、「天の時、地の利、人の和」が活かせる時代が来ているようだ。
松下 義弘(繊維・未来塾 幹事、日本繊維機械学会フェロー)
*繊維学会誌2022年2月号、時評より
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