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染色整理業はキーインダストリーです
The Dyeing and Finishing Industry is a Key Industry.
一般社団法人日本染色協会は織編物を中心とした染色整理加工を行っている会員企業(社員)からなる団体です。2022年6月16日現在、社員として32企業と10団体が加盟しており、全体で172企業が所属しております。
日本染色協会は1969年に設立されましたが、そのルーツは戦前に遡り、1929年(昭和4年)に日本輸出織物染色連合会が創立された事に端を発します。戦後に幾度かの統廃合等があり、1969 年(昭和44年)に日本染色協会が誕生しました。1971年(昭和46年)には法人化により社団法人日本染色協会が設立され、その後、公益法人制度改革に基づき、2012年(平成24年)に法人格を“社団法人”から“一般社団法人”に移行し、現在の一般社団法人日本染色協会に至っております。
繊維産業は糸偏の産業と呼ばれることがあります。紡糸・紡績・織り・編み・縫製と川上から川下に至るまでの業種は糸偏の言葉で表現されます。そこで扱われる原料や製品も、原綿-原糸-織物・編物-縫製品・繊維製品と全て糸偏の言葉で表現されています。その中で染色整理は糸偏では無く氵編の染という文字が使われており、ある意味異色の業種と言えます。染という文字は氵(水)に九十八と書くように水を大量に使用する工業です。水を媒体にした精練・漂白・染色・捺染・仕上と言った様々な工程を駆使して、生機から物性・堅牢度に優れた製品にその様相を劇的に変化させます。染色整理業は、繊維産業におけるキーインダストリーとして、繊維製品に彩りと感性を吹き込み、消費者に安心安全と満足そして感動を提供致します。
環境対策として、法令の遵守はもちろんですが、製造過程で発生するCO2と揮発性有機化合物(VOC)は、予てより削減すべき対象として排出抑制に取り組んでおります。CO2排出削減には「カーボンニュートラル行動計画」という自主的な取組に参画しております。VOCは光化学スモッグの原因物質の一つと言われており、VOCが発生する大型の設備には回収装置の設置が義務付けられております。規制対象以外の設備或いは工場におけるVOC排出抑制の自主的取組も進めております。
政府は「カーボンニュートラル2050宣言」を発表し、2030年度までに2013年度比で、全体で CO2を46%削減することを目標と致しました。我々は「カーボンニュートラル行動計画」において、「カーボンニュートラル2050宣言」で提示された産業部門の38%削減を目標として活動しており、2020年度は2013年度比で32%削減致しました。染色整理業のCO2排出量は1990年度のCO2排出量370万tを超えておりましたが、2020年度はおよそ79万tと100万トンを下回っております。因みに国内全体のCO2排出量は12億tとも言われております。
VOC排出抑制の自主的取組は、当初は大気汚染防止法の改正により、平成22年度までに平成 12年度比で3割程度の削減を目指して実施されました。その結果、平成22年度において4割以上と高い削減を達成しました。この高い実績の維持拡大を目指し、新たな削減目標は設定しない形で、引き続き排出規制と自主的取組を組み合わせて取り組むこととなりました。我々は、自主的な削減目標として、平成22年度よりも悪化させないこととして取り組み、2020年度のVOC 排出量は約900 tで、平成22年度の約3,000 tと比べ約7割、平成12年度の約8,500 tと比べ約 9割を削減致しました。VOC排出抑制の取組により、光化学スモッグの発生頻度は大幅に減少し、工場の作業環境が大きく改善されました。周辺住民や労働者の保護につながるSDGsの理念とも合致した取組と言えます。
染色整理業は水・エネルギー多消費型産業と言われ、排水や排ガスは環境負荷が大きいことからこれまでに環境対策として様々な取組を行い、法令を遵守して参りました。法令遵守にあたり、分析値を報告することにより製造状況の数値化ができております。グローバルな企業連合が製造現場の透明化を求めており、国内ではカーボンフットプリントの議論も始まっております。繊維製品の過剰生産・大量廃棄問題も大きな課題に取り上げられ、適量生産の要求も高まると考えております。我々はこれまで培ってきた多品種小ロット対応、環境対策の実績とノウハウを活用し、透明化の対応及びSDGsに代表されるサステナブルな物づくりを推進致します。
日本は水環境に恵まれた極めて特異な地域です。異常気象に見舞われなければ、生活用水だけでは無く工業用水や農業用水も不足することはありません。ファッション産業の工業用水の消費割合は 0.2%と言う調査報告があり、染色整理加工の生産現場を海外から国内に切り替えることは、水環境において水不足で深刻な事態に直面している地域から十分に満たされている地域に替えることとなり、SDGsの水対策に貢献することができます。海外生産-製品輸入から原料輸入-国内生産に切り替えることにより、トレーサビリティーが高まります。染薬・エネルギーコストの高騰、円安、地政学的なリスク等、大変厳しい環境でありますが、この難局を乗り切り、繊維産業のキーインダストリーとして国内繊維産業の維持発展に貢献して参ります。
後藤 勝則(岐セン株式会社 代表取締役社長)
*繊維学会誌2022年11月号、時評より
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