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GX の観点から
From a GX Perspective
2015年9月にSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連総会で採択されました。わが国でも政府、自治体、企業、学校教育など様々な現場で17の持続可能な開発目標が議論され、2030年の達成に向けて積極的な取り組みがなされています。当初、SDGsの言葉自体も明確に理解されていない部分も多々あったように思われますが、今では大人から子供まで、人類にとって必要な世界共通の目標として認識されています。
岸田内閣により、未来を拓く「新しい資本主義」の実現のために「成長と分配の好循環」の必要性が明示されました。その中で社会課題を成長へのエンジンへと転換し、持続可能な成長を実現させるための「成長戦略」として、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)、DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)の 4つの重点投資分野への支援が明確にされました。
その中でも、SDGsの開発目標に挙げられているNo.7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに、No.9:産業と技術革新の基盤をつくろう、No.12:つくる責任 つかう責任、No.13:気候変動に具体的な対策を、No.14:海の豊かさを守ろう、No.15:陸の豊かさも守ろう、などに関連するGXは、繊維産業にも密接に関係しています。
GXとは、環境に配慮した先端技術を用いて、脱炭素(温室効果ガス排出量実質ゼロ)や次世代再生可能エネルギーの開発などを通じて、次世代に美しい地球環境を引き継いでいくための社会変革を意味しています。
より具体的には、製造プロセスや運輸にかかるエネルギー源を、化石資源から風力発電や水素エネルギーなどのクリーンエネルギーに転換したり、ポリマー原料を石油から再生可能資源に変換することを通じて、産業構造や社会経済を変革し、持続的な成長を目指す取り組みのことです。我が国は、2013年度のCO2排出量に対して2030年度で46%削減、2050 年にカーボンニュートラルを実現することを国際的に約束しています。
余談になりますが、GXやDXの“X”は、交差するとか横切るという意味のあるtransの略(英語圏では、transの代わりにXを使う)だそうです。
繊維においては、原料の観点では石油合成ポリマーから再生可能なバイオマスより生産されるバイオベースポリマーへの転換とバイオマスから C2~C5化学原料への転換技術、製造エネルギーではクリーンエネルギーへの転換、リサイクルの場面では繊維から繊維へのマテリアルリサイクルと熱分解法によるケミカルリサイクルの促進などがGXの一部として考えられます。
GXの実現には、製品のライフサイクル全体(資源採取-原料生産-製品生産-流通・消費-廃棄・リサイクル)の環境負荷を定量的に評価する手法であるライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)を常に意識することが重要です。さらにもう一つ、国際的にGXを先導する人材の育成およびGXに資する地域・産業との協創を推進することです。
そのためには、大学などの高等教育機関が率先してGXを実践する場の提供とGXを先導する高度人材育成プログラムを開設し、深い専門性に加え、分野をまたぐ広い視野を併せ持つ人材育成に取り組まねばなりません。学会は、産業界と共に、GXを国際的に先導できる人材育成の後押しをする取り組みを積極的に検討すべきです。現在日本のいくつかの大学では、脱炭素を達成するための国際キャンペーンである「Race to Zero」に参加し、脱炭素キャンパス化を目指したロードマップの作成を行っています。このような取り組みにより、学生のGXに対する意識を高めるとともに、自身の取り組んでいる研究がGXとどのようにかかわっているかについても考える契機となっています。
GXに資する先端戦略分野(量子、半導体、通信インフラ、金融、数理、都市計画、医療、材料など)、さらにこれらの研究領域における文理融合により横断的な産学協創が必要です。繊維学会には、繊維に関わるあらゆる分野の研究者や技術者が集っています。新たな社会変革の概念として提唱されていますが、今のところ一見、GXは何のことかわかりにくい取り組みです。しかしSDGsと同様に、数年後には開発された製品がGXの考えに沿っているかが、必ず国際的な一つの指標になるものと思われます。学生のみならず、我々研究者も自身の研究がGXとどのように結びついているかを今一度問うとともに、学会として繊維全体の方向性をGXの観点から見直し、整理・発信することが求められると思います。GXはいろいろハードルが高く、実現には時間がかかると思われますが、共に考え、できるところから少しずつでも始めて行きましょう。
岩田 忠久(東京大学 教授)
*繊維学会誌2023年2月号、時評より
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