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繊維学会のこれまでとこれから
Past and Future of Sen’I Gakkai.
冒頭から私事で恐縮ですが、今年1月の雪の日に派手に転倒してしまい、大腿骨骨折でひと月ほど入院をしておりました。会社のほうからは一切業務をするなと指令を受けていたのですが、手術をしてもらってからは徐々に余裕が出てきまして、ふと繊維学会誌の時評への寄稿を依頼頂いていたことを思い出し、J-STAGEで繊維学会誌を読んでみることにしました。
大変残念なことに、時評がJ-STAGEで読めるのは2000年以降のみで、1999年以前は報文のみの収載となっていますが、報文については1巻1号から全て掲載があり、不勉強で知らないことが多いため、新鮮な気持ちで拝読できました。その後、無事退院し出社できるようになったので、J-STAGEでは見られなかった時評についても、紙媒体を確認することができました。
今月号では繊維系3学会統合に関する会員アンケート結果が掲載されると聞いておりますので、関連して、これまで繊維学会を担ってこられた先人たちがどのような思いをお持ちだったのか、年代をさかのぼって紹介させて頂こうと思います。
最初に2014年9号の鞠谷会長による時評「新たな飛躍に向けて」を紹介します。「創立70周年を迎え、記念事業を力強く推し進めて」いることが紹介され、「繊維学会の総力を挙げて取り組むこの創立70周年事業が、本学会の新たな飛躍へ向けた起点となるものと信じております」と述べられています。一方で、「大手繊維関連企業でも業態が変化し」「人員も規模も縮小している」こと、「大学では、かつて多数存在した繊維関連の学科・専攻の多くは専門領域をシフトさせ」「組織的に繊維に関わることは難しくなって」いることが指摘されています。実力向上、産官学の連携、国際交流の活発化と日本の繊維の窓口としての役割、研究提案、情報発信の重要性についてご指摘がありました。
次に、2000年1号の座談会「新たなミレニアムにあたって、20世紀を振り返る」の記事を紹介したいと思います。繊維産業にとって20世紀は華々しい時代であったという総括の後、宮田会長は「従来主として、川上、川中位までの科学と技術におおいに寄与していた」、「消費者の立場に立った科学という面も強化することが必要」と述べられています。大口氏は「繊維産業が成熟期に入り」「大学も繊維から先端科学にシフトしつつある現在」、3学会併存には無理があるとし、「1つの学会に統合していくべきでしょう」と述べられ、安部田氏も「3学会を統合することが全体の理解にもつながり、繊維産業にとっても有益」と述べられています。宮本先生は統合に関する困難について想定されながらも、「旧財閥グループの中核である住友とさくら銀行が合併する時代であり、関係各位の努力と英断を期待しています」と述べられています。
同じく2000年、11号の増子先生による時評「21世紀の繊維学会へ期待するもの」について紹介します。「ここ数年は、学会運営の主要財源が総合的に減少を余儀なくされているのだ」、「最も気になるのは会員の高齢化であり、会員数の減少である」とご指摘がありました。また、「本学会の名称変更が話題になったことがある」と紹介され、日本窯業協会が日本セラミック協会、日本毒学会が日本トキシコロジー学会となったと例示し、「例えば(社)日本ファイバー学会」と名称変更し、新たな発足をしては如何かと率直に思う」と、英語名変更不要の件も含め、述べられています。
最後に、内田豊作先生の1969年の“繊維と工業”誌2-3号「繊維学会の発展に期待する」の記事を紹介します。「着実にその目的に向って進みつつあることは同慶の至り」と述べられたあと、「一昨年の秋」「筆者は、本会と繊維機械学会並びに繊維製品消費科学会との合同を希望する旨の発言を行った」こと、「所属する会員に重複するものの少なくないこと、行事の主催共催の相持ち、等の実情」について述べられています。「原料・加工・消費は正に3にして1、それぞれがその専門とする分野に立寵っていたのでは、その責を全うし得ない」、「一体化した学術分野を代表するものが単一であることが、対内対外共に少なからぬプラスであろうこと、両学会3学会に属する多数会員は、合同の実現によって、より合理的より有機的に企画整理された情報が得られ易くなる」と指摘されています。戦前、内田先生は繊維工業学会の会長、厚木先生は繊維素協会の主席幹事を務められましたが、「より広汎な共通領域に立脚する単一学会への脱皮を志向した事態に鑑みて、先ず両学会の会長に故厚木博士を推して合同準備工作を進め、昭和18年両学会の発展的解消と同時に、本学会の設立をみた」と繊維学会の発足の経緯を紹介され、「くだらぬいきさつや、小さな感情にこだわることなく、謙虚に事態に対処し得たところに本会発展の礎石が置かれた」と述べられています。
今回、予期せぬことから繊維学会誌を読み返す機会を得て、それぞれの時代の先輩諸氏が繊維学会のおかれた状況を正確に把握し、その上でよりよい学会にしようという熱い思いで今日までつないでくださったことがよくわかりました。また、繊維系3学会の統合については少なくとも1967年から課題として認識され、果たせていない長年の宿題になっていることも改めて確認できました。個人的には、偉大な先輩諸氏にも、そして、繊維に携わる後輩の諸君にも恥じないですむ判断、対応を進めていきたいとの思いを強くすることができ、「骨折り損」にはならなかったと思う次第です。
荒西 義高(東レ株式会社)
*繊維学会誌2023年5月号、時評より
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