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2030年に向けた繊維関連政策の取組について(繊維ビジョンより)
Textile Industry Policy Action for 2030
1.はじめに
繊維産業は、現在、少子高齢化やグローバル化、サステナビリティやデジタル化への対応など大きな外部環境の変化に直面しています。こうした環境変化へ柔軟に対応すべく、経済産業省では2022年5月に「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)¹⁾」を策定し、繊維産業が目指すべき政策の方向性をとりまとめました。経済産業省では、「繊維ビジョン」に掲げられた政策を実行すべく、新市場開拓のための分野を「戦略分野」、サステナビリティやデジタル化への対応などビジネスの前提となる分野を「横断分野」と位置付け、繊維産業政策を推進しているところです。
本稿では、「繊維ビジョン」に基づき、これまで実施してきた取組と今後の政策の方向性について御紹介します。
2.繊維ビジョンの取組状況
「繊維ビジョン」では、繊維産地における「稼ぐ力」を高めるための政策として、新たなビジネスモデルの創造や、新しい発想・商品開発により新市場の獲得を目指すことが掲げられています。この具体的な施策として、「ファッション・ビジネス・フォーラム2023」や「繊維産地サミット」の開催、「次代を担う繊維産業企業100選」に取り組んできたところです。
(1)ファッション・ビジネス・フォーラム 2023
繊維産地や業種を超えたマッチングを促し、新たなビジネスモデルの創出や繊維企業の「稼ぐ力」の向上を図るため、2023年1月に「ファッション・ビジネス・フォーラム2023」を開催しました。参加者同士の積極的な交流により、繊維産地を越えた新たな連携も始まっています。
(2)繊維産地サミット
繊維産地の活性化や産地企業の支援には、業界団体だけでなく、各繊維産地の実情に応じた地方公共団体による支援が重要です。国内の繊維産地は、国内市場の頭打ちや輸入品の増加、事業所数や就業者数の減少によるサプライチェーンの維持の困難化等、共通した課題を抱えており、こうした課題に対応した取組を産地間で共有し、繊維産業が一丸となって取り組んで行く必要があります。
そこで、国と地方公共団体どうしの連携を進めるべく、国と繊維産地を有する地方公共団体から構成される「繊維産地サミット」を開催し、「繊維産地サミット宣言²⁾」をとりまとめました。「宣言」では、今後拡大が見込まれる海外市場に対する輸出額の倍増や地域に根ざした魅力ある繊維文化を通じた地産地消(産地エシカル)に取り組む国内需要の掘り起こし等を掲げており、今後も国と繊維産地とで連携し、繊維産地の活性化に向けた取組を進めてまいります。
(3)次代を担う繊維産業企業100選
「繊維ビジョン」に掲げられた5つの横断分野(①サステナビリティ、②デジタル化、③技術力やデザイン力による付加価値の創出、④新規性のある事業・サービスの展開、⑤海外展開)について、優れた技術力・デザイン力を持つ企業や、優れた取組をしている企業の取組が広く認知され、更なる新しい連携・製品開発等を推進することが可能となるよう、「次代を担う繊維産業企業100選³⁾」として選定いたしました。今後、更なる活躍を期待しています。
3.今後の政策の方向性について
繊維製品分野においては、特に欧州において、環境への適切な配慮や人権デュー・ディリジェンス(DD)などサステナビリティへの対応が急速に進展しています。2022年3月には、欧州委員会が、2030年までにリサイクル繊維を大幅に活用すること等を目標とする「持続可能な循環型繊維戦略」が公表され、既に海外の大手アパレル等においては、政府における規制等に先行して、環境や人権等に配慮したものづくりが始まっています。
こうしたグローバルにおけるサステナビリティへの対応等も踏まえ、我が国の繊維企業が海外市場等で確実に需要を獲得していくためには、国内外の消費者ニーズを捉えた技術・製品開発だけでなく、環境や人権などグローバル基準での適切な対応が求められていきます。経済産業省としても、国内の繊維企業における環境(資源循環)や人権等に配慮した取組を支援してまいります。
(1)繊維製品における資源循環システム検討会
経済産業省では、環境省と共同で、2023年1月より「繊維製品における資源循環システム検討会⁴⁾」を立ち上げ、繊維製品の資源循環を進めていくための課題整理や必要な施策について検討しているところです。繊維製品の資源循環システムの確立に向け、「回収」「分別・再生」「製造」「販売」の4つのフェーズで課題を整理し、並行的に解決することを目指しています。
国内における衣料品の回収方法、回収した衣料品の分別と繊維から繊維へのリサイクル・再生技術、製造時の環境配慮設計、販売時における消費者への理解促進等について議論し、課題解決の方向性を2023年夏頃にとりまとめる予定です。
(2)環境配慮設計ガイドラインの策定
繊維産業全体での環境配慮に係る取組を進める上では、製品設計に当たって特に注力すべき点等に関して共通理解を持つことが重要です。そのため、繊維企業が活用できる、統一的な評価指標等を盛り込んだガイドラインを、繊維評価技術協議会と連携し、2023年度中に策定する予定です。
環境配慮設計においては、例えば、副産物の削減、省エネルギー・省資源、製品の長寿命化、消費活動後の資源循環といった観点だけでなく、繊維・アパレル製品のトレーサビリティや環境配慮情報等の表示方法もあわせて検討していく予定です。
(3)標準化
欧州や中国において、繊維製品市場に影響を及ぼす資源循環などに関する国際標準化の動きが活発化し、イニシアティブを獲得しようとする競争が激しくなっています。市場獲得のための戦略だけでなく、グリーンウォッシュへの対応も見据え、リサイクル繊維やバイオ繊維の評価方法や表示方法などについて、繊維業界と連携しながら、規格化を進めてまいります。
4.おわりに
我が国の繊維製品は、長年にわたる伝統と文化、高い技術力、クラフトマンシップ、そして素晴らしい感性が相まって、海外市場でも高く評価されており、引き続き、我が国の繊維企業は世界で活躍し続けていけると確信しています。繊維産業の持続的な発展のために産学官が英知を結集し、業界一丸となって果敢に困難な課題に取り組んでまいりたいと思います。
注
1) 産業構造審議会 製造産業分科会 繊維産業小委員会「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」2022年5月
2) 繊維産地サミット「繊維産地サミット 宣言」2023年1月
3) 「次代を担う繊維産業企業100選」に選定された企業の取組は「事例集」としてとりまとめ、経済産業省のホームページで紹介している。また、本年夏には英語版の事例集を作成する予定。
4) 「繊維製品における資源循環システム検討会」の議論の状況は、経済産業省のホームページで公開している。
田上 博道(経済産業省 生活製品課 課長)
*繊維学会誌2023年7月号、時評より
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