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繊維製品における資源循環システム
Resource Recycling System for Textile Products
筆者は、この数年間、経済産業省の生活製品課が主催する繊維産業関係の委員会や検討会の委員長を務めさせていただきました。2021年前半は「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」、引き続いて2007年以来久しぶりに「繊維産業ビジョン 2030」を作成しました。
2000年代以降の20年間で繊維産業をめぐる環境は大きく変貌しました。海外からの衣料品輸入の拡大、国内の人口構成の変化に伴う市場の変化、世界規模では衣料品市場の拡大、SDGsに対する認識の高まり。こういった国内外の状況を踏まえ、「2030年に向けた繊維産業ビジョン」では、サステナビリティ、デジタル化、技術開発、新事業展開、海外展開の5つの柱を立てました。このビジョンを実現していくための第一歩として、2023年初頭には「次代を担う繊維産業企業100選」を発表いたしました。この100選の目的は、すでに課題解決に先進的に取り組んできた企業を表彰することでさらにその推進を後押しすることとともに、それらの優れた具体的取組を業界で広く共有することで、課題解決に積極的に取り組む企業を増やすことです。
さらに、ビジョンの中でも重要な柱であるサステナビリティを推進するため、2023年1月に「繊維製品における資源循環システム検討会」を設置し、環境省の担当者も含めて現在検討を進めている段階です。この検討会の報告書は8月頃の発表になる予定のため、本稿ではその内容を具体的に紹介することはできませんので、いままでの検討経過をここではご報告させていただきます。
これまで5回の検討会を開催しており、その議題と報告企業は次の通りです。
第1回:繊維リサイクルに関する技術開発(NEDO、帝人フロンティア、倉敷紡績)
第2回:繊維資源回収に関する取り組み(ナカノ、オンワード樫山)
第3回:販売、表示および消費者意識(京都市、日本ユニフォーム協議会、日本毛織、日本化学繊維協会)
第4回:繊維の資源循環に関する海外動向(ReFashion、EU、H & M、Patagonia)
第5回:天然繊維の資源循環(大津毛織、日本紡績協会、Woolmark Company、天然繊維循環国際協会)
このような検討を通じて、繊維製品の資源循環についてさまざまな課題が明らかになってきたが、ここでは委員会としてではなく、筆者個人が感じたいくつかの問題について、以下で述べていきたい。
まず、繊維製品の生産プロセスはグローバルな分業がなされていることが、循環システムの構築を難しくしている。たとえば、日本の生地が海外輸出され、海外で縫製され、完成された衣料が日本に戻ってきたり、現地で消費されたり、第3国へ輸出されたりする。川上から川下、消費地がさまざまな国にまたがっているのだが、いったいどのくらいの比率で動いているのか、正確には把握できていない。そのため、たとえば日本で回収された古着の材料の正確な情報がつかみにくい。日本だけで材料の表示についての制度を整えても、それだけでは完結しない。国際的な連携が必要になってくる。
次に、繊維材料のほとんどが、天然繊維と合成繊維の混紡になっていることが、繊維へのリサイクルを難しくしている。繊維ではないが、ペットボトルのように、材料が単一で、着色もされていない材料は、リサイクルが比較的容易である。しかし、繊維の場合、とりわけ合成繊維の場合は、100%ポリエステルのような商品は限定的である。これまで、様々な繊維の特性を活かして、それを混紡することで、日本の繊維企業は製品を差別化し、高機能な衣料原料を提供してきた。しかし、その差別化の方法が、リサイクルにとっては足かせともなっている。混紡の衣料から、元の天然繊維や合成繊維に戻すには、さらなる技術開発が必要である。現在は各企業が自分の専門分野での繊維のリサイクル技術に取り組んでいるが、混紡でのリサイクル技術開発のためには、さまざまな専門企業の連携が必要になるでしょう。
最後に、そもそも、リサイクル前の最初の開発・生産・消費の段階で資源循環を意識することもきわめて重要である。資源循環しやすいような環境配慮型の設計や、長く着ることができる衣料の設計生産、売れ残りが出ないような生産量の調整やビジネスモデル、古着をなるべく出さないような消費。開発、生産、販売、消費にかかわる企業や人々が、無駄な資源消費をしないようにすることが求められている。資源リサイクル技術を開発するのはメーカーだが、資源リサイクルは川上からの押し付けでは実現しない。もっとも川下の消費者がそういったものを求めることが大前提となる。リサイクル製品の価格はバージン材料よりも高額になるが、それを消費者が許容しなければ、リサイクル材料は普及しないでしょう。
資源循環システムは、多くの企業や人々、国々の連携が必要になってきます。課題は山積みですが、資源循環システムをつくることがこれからの社会に必要であるとの意識を共有して、その課題を乗り越えていきたいものです。
新宅 純二郎(東京大学 教授)
*繊維学会誌2023年8月号、時評より
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