SFST's Voice
LINKS
- Home
- SFST's Voice
- 世界の繊維関連学術活動の動向
世界の繊維関連学術活動の動向
State of Fiber-Related Academic Activities in the World
バングラデシュ繊維学会(The Society of Fiber Science, Bangladesh)の創立記念式典と国際セミナーが2023年8月29日にダッカで開催され、筆者は特別ゲストとしてご招待頂き、祝辞を述べるとともに基調講演を行った。バングラデシュは、近年、縫製業を中心に繊維産業が発展し、国の経済を支える産業となっている。政府や大学の関係者からは、世界的には天然繊維と合成繊維の比率が3:7であるのに対しバングラデシュでは7:3になっており、特に川上側の合繊産業の育成が課題であるとの認識の下で今後の施策を探っていこうという見解も伺うことが出来た。同国では10を超える多くの大学にTextile Engineering学科が新たに設置され、各大学から毎年数十から数百人規模の優秀な卒業生を輩出している。学会設立とともに新たな繊維科学の方向性を探っていくことは容易ではないが、産業界からの後押しを受けつつ、留学経験もある多くの若手研究者が先端研究の進化を担っていくという構図のなかで、今後の発展への大きな期待感を醸し出していた。
一方で、米国繊維学会は創立80周年記念の国際会議を2022年10月に米国の繊維研究のメッカともいえるノースカロライナ州立大学(NCSU)のCentennial Campusで開催した。コロナ禍の影響を受け 1年遅れで開催された同大会は、多くのOB研究者を集め盛会ではあったが、さらに大きな盛り上がりを期待していたという声も、特に海外からの参加者からは聞こえてきた。米国繊維学会は、ある時期から企業との協力関係が途絶え、その後、2000年代からは国際化に活路を見出す方向に進んでいる。近年では、春季大会は米国外、秋季大会は米国内で開催しているが、各大会の規模感、中心とする研究分野は、実行委員長とその関係者の力量と人脈に大きく依存しているのが現状である。2018年に東京で開催した春季大会は、繊維学会を中心とする繊維関係者の多大な協力もあり大きな成功を収めることができた。ただ、残念ながら、その後の春・秋の大会に多くの日本人研究者が参加するという動きには繋がっていない。米国繊維学会が、そのネームバリューに見合った活動を継続していくことは世界中から望まれている。そのためには国際化の基本姿勢は継続しつつ米国内での運営基盤を強化することが必須であり、業界との関係の再構築が重要な意味をもつと考えている。
さらに、2023年の4月には韓国の繊維学会が創立60周年記念の年次大会を済州島で開催した。筆者はここで基調講演をさせて頂いたが、招待は元米国繊維学会会長として受けており、日本の繊維学会関係者には声をかけて頂いていない点に懸念を感じた。なお、創立50周年記念大会には、当繊維学会の会長として信州大学の平井利博先生が招待され基調講演をされたことは、繊維学会誌に掲載された同大学の金翼水先生の報告記でも述べられている。個人的な見解ではあるが、韓国でもアカデミアでの激しい生存競争のなかで既存分野の研究者が淘汰される傾向があり、繊維業界との関係があまり強くない基礎研究志向の精鋭の研究者が韓国繊維学会の幹部になっているという印象を受けた。業界の状況の影響もあるかも知れないが、この記念大会のスポンサーに韓国の大手繊維会社が一つも入っていないことには、若干の違和感を覚えた次第である。一方、韓国の繊維関係の先生方が継続的に米国のNCSUとの深い関係を保っていることには羨望の眼差しを向けざるをえない。
欧州に目を転じると、1994年に設立された AUTEX(Association of Universities for Textiles)が、年1回の国際会議の開催、学会誌の出版、国際的修士課程教育プログラムの実施などで活発な活動を展開している。ベルギーのGhent大学を中心に発足したAUTEXは現在では29カ国から45大学が会員として参加しており、京都工芸繊維大学、信州大学も会員となっている。筆者は縁があってWE-TEAMと呼ばれる教育プログラムに参画している。ベルギーに赴き、世界中から選抜された20名程度の優秀な学生に 1日に4.5時間の講義を1週間続けて行うことはかなりの負担ではあるが、学生さんの反応も良く楽しい時間を過ごさせて頂いている。AUTEXの運営に携わられている先生方は、各国、各大学の思惑も異なるなかでの大変な調整役を担われていると拝察するが、学会活動はボランティアベースであり、ご自身の活動が大事な繊維分野の維持と発展を支えているとの思いがその原点にあることは、世界共通の認識であろう。
最後に記載すべきは、繊維学会が加わっているFAPTA(Federation of Asian Professional Textile Association)であり、Australia, Chinese Taipei, Hong Kong, India, Iran, Korea, Chinaとともに、2年に一度、各国・地域を巡って開催しているATC(Asian Textile Conference)の活動を、日本として支えていく責任を感じている。2019年のShaoxing/Hangzhou, ChinaでのATC-15、2022年の日本(on-line)でのATC-16に続き、2024年12月には台中市にある逢甲大学(Feng Chia University)でATC-17の開催が予定されており、積極的な参画が望まれる。FAPTAにバングラデシュ繊維学会が加わることも、そう遠くない将来に実現するのではないだろうか。
鞠谷 雄士(東京工業大学 特任教授)
*繊維学会誌2023年10月号、時評より
- Home
- SFST's Voice
- 世界の繊維関連学術活動の動向