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アフターコロナはサステナブルな世界へ
After Corona to a Sustainable World
新型コロナが二類感染症からインフルエンザと同等の五類感染症に引き下げられ、屋外でマスクを着用している人はほとんど見られなくなりコロナ前の日常が戻ってきたように思います。日常は戻りましたが、コロナ前と比べて明らかに違うのは人々の衛生意識の高まりです。体調が悪い時は自主的にマスクを着用したり、満員電車の中では自主的にマスクを着用されている人が見受けられます。また、量販店や飲食店などの入り囗には消毒用アルコールが常設されています。これは日本だけのことではなく世界的に衛生意識は向上していると思われます。先日ベトナムに行く機会があったのですが、マスクを着用している人は見られないものの店の入り囗には消毒用アルコールが常設されていました。
衛生意識の高まりにより抗ウイルス加工繊維が市場で受け入れられるようになりました。これには日本の繊維業界が2015年に生み出した繊維製品の抗ウイルス性を測定する試験法(JIS L1922及びISO 18184)により実際のウイルスを用いて抗ウイルス効果を測定し、製品の信頼既が得られたことによる要因が大きかったと思います。現在、一般社団法人繊維評価技術協議会(繊技協)では経済産業省戦略的国際標準化加速事業として新型コロナウイルスにも対応する標準的試験方法を開発し標準化を進めています。
新型コロナウイルスに限らず今後また何時どこかで未知のウイルスによるパンデミックが起こるかもしれません。そのためにもこの世界的な衛生意識の向上はパンデミックを最小限に食い止めてくれるものと信じています。抗ウイルス加工繊維はその対策の中のひとつの手段として今後も社会に貢献していくと思います。
また、日常生活でマスクを外すようになって気になるのが身の回りの臭気です。新型コロナが収束し抗菌防臭加工繊維や消臭加工繊維の需要が高まっています。身の回りで問題となる臭気の種類も増えているため今後新たな臭気成分に対する消臭性試験法やその基準も必要になってくると思われます。
新型コロナが収束し、欧州が先行して世界的にサステナブルなものづくりが加速しています。地球環境や人権に配慮した責任あるものづくりが企業に求められてきています。
繊維製品に対しても資源循環やカーボンニュートラルなどサステナブルなものづくりへの対応が求められています。欧州では環境配慮設計に関するルール作りや規制の動きが急速に進んでいます。日本の繊維産業は天然繊維や化学繊維など糸の製造から生地の製造、染色、加工、縫製と多段階の製造工程があり、それぞれの工程により環境配慮設計への取り組みが異なっているのが現状です。2022年5月にとりまとめられた繊維ビジョンにおいても繊維産業全体で環境配慮設計に係る取り組みの推進が求められています。
世界で消費される天然繊維の量は昔とほぼ変わらず化学繊維の消費量が増加したことから今では消費される繊維の70~80%が化学繊維です。日本では繊維製品の約70%が使用後廃棄処分されているということから、化学繊維メーカーは生分解繊維の開発や植物由来の原料を使用した繊維の開発に力を入れています。またペットボトルなどから再生されたポリエステル繊維のニーズも高まっています。そこで、化学繊維については昨年からリサイクル等に関する定義および適合評価方法について検討が行われています。
また、天然繊維についても反毛により再生されたリサイクル糸やリサイクル再生セルロース糸のニーズが高まっています。そこで、天然繊維については本年度から反毛糸やリサイクル再生セルロース糸等についてのルール規定や適合基準設定に向けて識別方法等の検討が行われています。
一般社団法人繊維評価技術協議会(繊技協)では2023年度新規標準化事業として「繊維産業における繊維製品の環境配慮設計に関する標準化調査」を実施し繊維製品の環境配慮設計の標準開発の推進に向けて①国内繊維業界における環境配慮設計状況。②欧州等における繊維製品の環境配慮設計動向(規制動向含む)。③繊維製品における環境配慮設計項目。等について調査を行いガイドライン作成に取り組んでいます。
サステナブルなものづくりについては今のところ欧州が一歩リードしていますが、かつて抗菌加工繊維や抗ウイルス加工繊維について日本の試験法とその基準が世界標準になったように、今後サステナブルなものづくりについても日本の繊維業界が一致団結して世界標準となるようなガイドラインの策定を推進し、エネルギー・環境負荷低減、生産性の向上および繊維製品の差別化による国際競争力強化を推進していかなければと思います。
辻本 裕(一般社団法人繊維評価技術協議会 会長)
*繊維学会誌2023年11月号、時評より
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