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化繊産業の課題と化繊協会の取り組み
Challenges of Chemical Fiber Industry and Activities of Japan Chemical Fibers Association
1.環境認識
日本の化繊産業は、ものづくりの中核となる先端繊維素材の開発と普及などを通じて、持続可能な成長サイクルを実現する新しい価値の創出を目指しております。
近年では、気候変動対策や循環型経済、人権尊重に向けた動きが世界的に加速しており、環境配慮型素材の開発・供給やサプライチェーンにおける人権配慮の推進など化繊産業が果たさなければならない社会的責任の重みは増しています。また、エネルギー価格の高止まりなどを受けて、繊維複合材料や高強力糸などの省エネ・低炭素化に資する化繊素材の重要性が一層高まっています。一方、地政学的な緊張、物価高騰、物流を含めた人手不足など、業界をめぐる経営環境は厳しさを増しております。
2.中期活動方針
このような環境下、日本化学繊維協会では、2021年度に策定した「中期活動方針2025」に基づき、①サステナビリティの推進、②競争力の基盤維持・強化、③情報発信の拡充、の3点を活動の方向性に掲げて、活動しております。
2022年度は、日本繊維産業連盟が公表した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」のサプライチェーンへの周知や人権デューディリジェンス取組発表会、「炭素繊維サステナビリティビジョン2050」の公表、繊維リサイクルシステム構築に向けた検討など、環境面・社会面ともにサステナビリティ向上に向けた取り組みを推進しました。また、協会ウェブサイトにサステナビリティコーナーを新設するなど、消費者や顧客業界への当業界の取り組みの訴求に努めました。
2023年度も、繊維製品の資源循環システム構築やサプライチェーンにおける人権配慮などのサステナビリティ対応を中心に業界活動に取り組んでおります。
3.サステナビリティ対応
環境関係では、マイクロプラスチック対応として、(一財)カケンテストセンターと共同で開発した「繊維製品から発生する繊維屑測定の試験方法」が2023年5月にISO規格化されました。現在、試験方法の普及に向けてデータ蓄積を進めているところです。同試験法が広く利用され、化繊からのマイクロプラスチック排出を軽減するよう、取り組みを続けて参ります。
また、持続可能な社会の実現に向け、循環経済に資する環境配慮型繊維(リサイクル繊維、バイオ化繊等)の普及を推進しており、同繊維を使用した製品の普及のためJISやISOなど標準化による環境性能の見える化を経済産業省等と協力して進めております。繊維製品の資源循環システム構築に向けた研究、製造・加工工程の開発も加速し、GHG排出抑制、環境負荷物質低減など、製品による環境負荷低減にも引き続き取り組んでいます。こうした取り組みは、エコプロへの出展やウェブサイト、SNSの活用等により、幅広く発信しております。
海外との関係では、欧州との接点となる日仏繊維協力WGのネットワークを活用するなどして、欧州の環境関連規制等の最新動向の入手に努めております。
アジアとの関係では、2024年5月に韓国で第14回アジア化繊産業会議が開催されます。同会議のテーマは「アジア化繊産業の持続的な成長のための協力」です。アジア化繊産業連盟の会長国である日本の化繊協会は主催国である韓国の化繊協会に協力して会議を運営する所存です。また同連盟標準化作業委員会の共同事務局として、各国地域の協調体制を構築するとともに、標準化による先端繊維素材の普及を図っております。
サステナビリティにおける環境以外の活動として、サプライチェーン上の人権問題に対して、ステークホルダーへの業界ガイドラインの周知、啓発活動、事例の共有を進めることで、会員企業はもとよりサプライチェーン上の関係先の理解を深め、労働環境の改善に貢献することに努めています。
化繊協会では2023年に新たに人権DD対応連絡会を設置しました。サプライチェーン上の人権問題に関して、経済産業省や日本繊維産業連盟の動き、各社の対応状況等を会員会社間で共有し、講演会開催等を交えて広く情報交換、意見交換を行い、会員の人権対応に資する活動を開始しております。
経済産業省は「繊維製品における資源循環システム検討会」の報告を受け、2023年11月に産業構造審議会製造産業分科会の繊維産業小委員会を再開しました。私も委員として参加しておりますが、環境や人権等への配慮は待ったなしの状況であり、日本の繊維産業の競争力を維持・強化しつつ、2030年の SDGs達成や2050年のカーボンニュトラル実現のために、産業界やアカデミア、政府や地方自治体等がどのような取り組みを行っていくべきかが論点の中心となっております。
同委員会では「環境対応」「労働環境整備・取引適正化」「サプライチェーン再構築・強靱化」が各論としてあがっております。こうした問題は、化繊産業だけで解決できる問題ではなく、オール・ジャパンの仕組みづくりが必要です。特にリサイクルなどでは選別・分離などでもう一歩踏み込んだ技術革新が必要であり、アカデミアとの連携は不可欠です。課題解決に向けて、学会の皆さまとの連携を更に期待するものであります。
大矢 光雄(日本化学繊維協会 会長)
*繊維学会誌2023年12月号、時評より
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