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社会課題を解決する産学共創プラットフォーム
Industry-Academia Co-Creation Platform to Solve Social Issues
繊維分野を活性化するためには、繊維の伝統技術を守っていくだけでは不十分で、大量生産・大量消費・大量廃棄といった繊維分野の課題に向き合い、サーキュラーエコノミーの実現やマイクロプラスチック問題の解決に先進的に取り組み、他分野のモデルになっていく必要がある。欧州の動きもあり、繊維分野の課題は、高機能の創成からサステイナビリティの実現へ移っている。高機能の創成のためには素材の種類を増やす傾向にあったが、サステイナビリティの実現のためには素材の種類を減らす必要があるなど、ゲームチェンジが起こっており、迅速な対応が望まれている。サーキュラーエコノミーの指標として、ライフサイクルアセスメント(LCA)があげられる。繊維の各製造プロセスのCO2排出量を把握して全体を俯瞰することによって、CO2排出量を削減する環境配慮設計が可能になる。信州大学繊維学部ファイバーイノベーションインキュベーター(Fii)では、(一財)カケンテストセンター、(一財)ボーケン品質評価機構、(一財)日本繊維製品品質技術センター、(一財)ニッセンケン品質評価センターと繊維製品のLCAプラットフォーム構築に昨年度から取り組んでおり、今年度からは、(一財)メンケン品質検査協会、(一財)ケケン試験認証センターも加わる。サーキュラーエコノミーの実現という社会課題を解決するために、6検査機関が参加する産学共創プラットフォームの構築が可能になった。繊維製品の環境配慮設計をするのはアパレル企業であるので、LCAプラットフォームはアパレル企業が使いやすいものである必要がある。LCAプラットフォームでは、インターフェースの設計に力を入れ、9月公開を目途に共同作業を進めている。
繊維製品の製造プロセスは、原材料、紡績、織編、染色、縫製、輸送、店舗、利用、廃棄など多くのプロセスから成り立っている。各プロセスでのCO2排出量評価を行った上で、全体を俯瞰し、CO2排出量削減の戦略を考えていく必要がある。電気量がほとんどであるプロセスは、省エネをして再エネを活用すれば、CO2排出量は削減しやすい。これに対して、化学が絡む原材料や染色におけるCO2排出量削減は簡単ではない。例えば、原材料のCO2排出量削減のためには、リサイクル材料が用いられているが、現在はペットボトルからの再生繊維がほとんどである。今後、ペットボトルはペットボトルに再生されるので、繊維から繊維への再生ができなければ、繊維用のリサイクル材料は使えなくなる。ケミカルリサイクルなどには、かなりのエネルギーが必要であることから、CO2排出量削減に有効であるとは限らない。繊維製品のつくり過ぎをしないこと、無駄を省くこと、メカニカルリサイクルを推進することがCO2排出量削減のために求められている。
経済産業省は、売上高100億円規模の中堅中核企業への支援を重視しようとしており、繊維学部がある上田キャンパス内に拠点を構える(一財)浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)が中心となって、繊維分野の中堅中核企業への支援を進めることになった。連携支援機関とて、Fii、京都工芸繊維大学繊維科学センター、金沢工業大学革新複合材料研究開発センター(ICC)、産業技術総合研究所北陸デジタルものづくりセンターがネットワークを構築して支援する仕組みで、石川県繊維協会や福井県繊維協会にもサポートいただく。
コロナ禍以降、繊維企業からFiiに繊維のサステイナビリティについての問い合わせをたくさんいただくようになった。繊維学部では、繊維の機能についての研究が中心であり、サステイナビリティについての研究はあまり取り組んでこなかったが、社会的要請が高いので、繊維のサステイナビリティを考えた未来について議論を重ねてきた。
サーキュラーエコノミーの実現を目指して、繊維企業と一緒に、リサイクルしやすい材料設計をする必要がある。サステイナビリティ重視の材料設計では、分離が必要ないようにモノマテリアルの設計を前提に考え、混繊を用いる場合は簡単に分離しやすい材料の組み合わせを考えていく必要がある。これまでと考え方が変わるので、新しいビジネス展開を図るチャンスになる。サステイナビリティに対する要求は海外の方が進んでいるので、海外の中堅中核企業と直接連携し海外販路を拡大することもサポートしていきたい。循環型サプライチェーンも構築する必要がある。廃棄物は県を跨ぐことができないので、その県にリサイクル施設がない場合は、焼却するしかなくなる。静脈にあたるリバースサプライチェーンを構築し、回収したものが適切なリサイクルにまわる仕組みをつくる必要がある。
繊維の中堅中核企業への支援を通して、新しい技術をもったベンチャー企業や中小企業を紹介し、ネットワーク化して、新しいビジネスモデルを生み出すことで貢献していきたい。
村上 泰(信州大学 繊維学部 学部長)
*繊維学会誌2024年7月号、時評より
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