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生成AI時代の繊維学会論文誌JFST
Journal of Fiber Science and Technology in the Age of Generative AI
ご存知の方も多いかと思うが、2025年度新規公募分から、競争的研究費による学術論文は即時オープンアクセスとすることが決定している。われわれのJFSTはすでに即時オープンアクセスに対応しているが、今後は投稿先を慎重に確認する必要がある。現在、学術情報はFAIR原則に従ってデータを共有することが求められている。FAIRとは、Findable(発見可能)、Accessible(アクセス可能)、Interoperable(相互運用可能)、Reusable(再利用可能)の略であり、この原則に基づいてデータを標準的な形式で公開することが必要である。従来のPDFファイルはこの目的に適しておらず、XML形式、具体的には「JATS XML」によって記事全文を構造的に記述したテキストファイルとして公開することが推奨されている。JFSTに投稿された論文はJ-STAGEを通じて公開されており、これらの原則にも対応している。一方、音声や動画といった印刷不可能な情報源の利用が増加しており、論文に付随するデータとしてこれらを公開する動きが進んでいる。数GBに及ぶデータを公開することが可能であり、ライセンスの付与も行うことができる。単に印刷された論文をインターネット上に掲載するだけでは、今後の学術出版においては不十分であることが明らかである。この点についても、JFSTとして早急に対応を検討していく。近い将来、論文だけでなく、価値ある動画や音声がインパクトファクターとして評価され、研究者の評価基準になる可能性がある。
また、生成AIの発展も学術論文誌に影響を与えることが予想される。前述のXML形式による公開は、ネット検索を可能にするだけでなく、生成AIのデータソースとしても利用可能となる。論文誌を読むのは主に専門家だが、XMLデータから抽出された論文の知識が、生成AIの回答として多くの一般の人々にも間接的に利用される時代が到来するであろう。生成AIがデータの信頼性をどのように評価するかは明確ではないが、ネット上の多様な情報の中でも、JFSTの信頼性は極めて高いと考えられる。研究者であっても、ChatGPTのプラグインであるScholarAIを活用すれば、曖昧な質問に対しても関連論文の要約を提供してくれる。必要であれば、記事全文を読む機能も備わっている。生成AIを介した文献調査が今後主流になる可能性もあり、その結果、研究者は生成AIのために研究し論文を発表するという未来も予見される。こうした状況において、引用数や参考文献の意義も再評価されるかもしれない。
このような時代の流れを見据えつつ、JFSTはジャーナル・インパクトファクターを持つ繊維系学会誌として、国内の繊維科学・技術を推進する責任を担っている。繊維学会の強みは、伝統と先端の両方を持ち合わせている点にある。温故知新と独創独立の精神を持ち続けるJFSTの伝統を守りつつ、新しい学術誌のあり方を積極的に模索していきたいと考えている。最後になるが、前JFST編集委員長である鬘谷要氏の後任として、今期より私が編集委員長を務めさせていただいている。今後ともJFSTへの投稿と支援を賜りたい。
武野 明義(岐阜大学 教授)
*繊維学会誌2024年10月号、時評より
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