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繊維産業におけるサステナビリティ推進等に関する政策の方向性
Policy Directions for the Promotion of Sustainability in the Textile Industry
1.はじめに
国内外の繊維産業は、この30年で衣料品の低価格化や供給量増加等の大きな変化に直面しており、特に、サステナビリティの強化に向けた取組は国内外で大きく加速している。我が国の繊維産業においては、低価格化や供給量増加に加えて、輸入割合の増加や国内市場規模の縮小等、産業構造が大きく変化しており、我が国の繊維産業が今後も産業競争力を維持・強化していくためには、縮小傾向にある国内市場のみならず、成長の見込まれる海外展開の推進が極めて重要である。また、海外展開にあたっては、環境負荷の低減や人権への配慮等といったサステナビリティへのグローバル水準の対応、国内における繊維製品の生産に必要な人材確保、価値の高い繊維製品を国内で製造していくための繊維産地におけるサプライチェーンの維持や強靭化も必要である。
こうした背景から、産業構造審議会繊維産業小委員会では、2030年に向けて取り組むべき具体的な政策について議論がなされた。本稿では、同小委員会によって 2024年6月にまとめられた「中間とりまとめ」から、これらの取組の進捗と方向性を紹介する。
2.環境配慮等のサステナビリティへの対応
繊維産業におけるサステナビリティへの対応については、資源循環等の環境負荷低減の取組が不可欠である。廃棄される衣料品を活用し、再び繊維粗原料として有効活用することができれば、衣料品の製造と廃棄の両方に係る環境負荷を一度に低減させることができるため、資源循環は繊維産業におけるサステナビリティへの対応として有効な手段であるといえる。
手放された衣料品の「回収」については、自治体や事業者による衣料品回収への参画を促し、消費者における衣料品回収の意識醸成を図ることで、家庭から廃棄される衣料品の削減を図っていく。具体的には、2030年度時点において、家庭から手放される衣料品のうち、廃棄されるものを2020年度比で25%(約12万トン)削減するとされた。手放された衣料品の「分別・再生」に関しては、特に廃繊維から繊維の粗原料を生成し、再資源化を図る「繊維to繊維リサイクル」の実現に向けて、企業において技術開発等が加速している。このような技術開発等を引き続き推進していくことで、手放された衣料品の再資源化を促進し、具体的には2030年度において5万トンの廃繊維を原料として、リサイクル繊維を生産できる体制を構築することが目標とされた。
また、繊維産業は、「設計・製造」の工程において、環境負荷の高さが指摘されており、海外市場、特にEUにおいては、リサイクル繊維等の環境配慮素材の需要が強まっている。そのため、今後我が国の繊維産業が国際的な競争力を維持・強化していくためには、一層の環境配慮設計の普及が必要であり、リサイクルを含めた環境配慮型の衣料品の「設計・製造」を図るため、産学官の有識者の協力の下に、「繊維製品の環境配慮設計ガイドライン(繊維環境配慮設計GL)」が2024年3月に策定された。現在、繊維環境配慮設計GLや繊維環境配慮設計GLに基づいて設計された繊維製品の普及、国内・国際標準化への取組等を順次進めており、2030年度においては、繊維環境配慮設計GLに記載された環境配慮項目に則って事業活動を行う繊維・アパレル企業を全体の80%まで拡大させることを目指すとされた。
環境に配慮された製品を普及させていくためには、製品の「販売」を担うアパレル企業等における、消費者等への環境配慮情報の開示も重要である。環境配慮に関する消費者への情報開示等の取組強化のため、2024年6月に「繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン」が策定された。また、リサイクル化学繊維・バイオマス化学繊維といった環境配慮型繊維の仕様や表示方法を定めたJIS原案の検討が進んでいる。こうした取組を踏まえ、繊維・アパレル業界全体で情報開示を進めていくため、2026年度を目途として、国内の大手アパレル企業における情報開示を徹底し、2030年度に向けて、国内の主要なアパレル企業における情報開示率を100%にすることを目指すとされた。
また、併せて2040年度における資源循環システムの構築や適量生産・適量消費の達成に向け、2030年をターゲットイヤーとしてKPIを定めた「繊維製品における資源循環ロードマップ」を策定した。
3.人材確保への対応
日本の繊維産業では、外国人技能実習生の受け⼊れにあたって、一部の企業において長時間労働や割増賃金の不払い等の法令違反が指摘され、業界全体の評価を下げる一因となっていた。このため、日本繊維産業連盟と共同で設置した「繊維産業技能実習事業協議会」を通じた繊維企業への働きかけにより、繊維業界における技能実習の適正な実施や繊維業界の信頼回復等に向けた取組が進み、2024年9月には、業界にとっても長年の念願であった特定技能制度に繊維業が追加された。追加に際して課された4つの上乗せの要件のうち、特に「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」への対応について、現状では5つの認証・監査制度を対象としているが、経済産業省では2024年度内に主要な国際イニシアチブ・国際認証等をもとに、我が国の繊維産業の実態を踏まえたJASTI(ジャスティ:Japanese Audit Standard for Textile Industry)を策定し、対象に追加することを予定している。
4.繊維産地におけるサプライチェーンの 維持に向けた取組の方向性
日本の繊維産業は、製造の各工程を担う中小企業・小規模事業者の高い技術力により、品質の高い製品が作られてきた。 しかしながら、経営者や従業員の高齢化・人手不足、新型コロナウイルス感染症の拡大による行動制限や生活様式の変化による経済的なダメージ、取引先等の生産拠点が海外移転することの影響等により、事業継続が困難になる繊維企業も出てきており、繊維産地におけるサプライチェーンの毀損リスクが顕在化している。このため、2024年10月より「繊維産地におけるサプライチェーン強靱化に向けた対応検討会」を設置し、繊維産地におけるサプライチェーン強靭化に向けた円滑な事業承継や価値の向上等のための環境整備を図るべく議論を進め、2024年度内のとりまとめを目指している。
5.おわりに
今後の繊維産業政策については、本稿で紹介した「中間とりまとめ」の方針に沿って進めていくことが望ましいとされた。我が国の繊維産業が今後もグローバルに産業競争力を維持し、世界でより一層活躍できるよう、繊維産業小委員会で議論した内容を踏まえて取組を進めてまいりたい。
髙木 重孝(製造産業局 生活製品課 課長)
*繊維学会誌2025年3月号、時評より
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