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繊維学会の未来への道
Path to the Future for Our Fiber Science and Technology
2024年6月に企画担当の副会長を拝命いたしました。2024年度は創立80周年記念国際シンポジウムISF2024が開催され、実行委員の皆様の多大なご尽力により、参加者469名と大変盛況で素晴らしいシンポジウムとなりました。実行委員の皆様を初め、関わってくださった会員の皆様に厚く御礼申し上げます。特に、企画・運営において、若手研究者の皆様のご活躍が目覚ましかったと感じております。ISF2024に続けて開催された秋季研究発表会も参加者307名と盛会であり、コロナ禍より始まった高校生セッションも開催されて更なる若手の活躍も見られました。繊維基礎講座、繊維応用講座はオンラインで開催され、それぞれ117名、110名の参加者がありました。催事がオンラインで開催されるようになったのはコロナ禍以降ですが、移動時間が必要なくどこからでも参加できるという利点を活かして、コロナ以前の対面開催時よりも参加者が多くなっております。
現在、繊維産業は変革期に突入し、繊維学会も改革の時期となっています。学会誌やHPでもお知らせしています通り、現在繊維学会では、繊維系三学会の合併協議を進めるとともに、将来構想委員会でビジョン・ミッションを策定し、その実現のために「学会の魅力度向上」、「新分野開拓」、「学術と技術の伝承(人材育成)」、「会員増強・運営基盤強化」の4つのカテゴリーに基づくアクションプランを推進すべく、検討を継続しています。この中で特に、「新分野開拓」と「人材育成」に関して私見を述べさせて頂きます。
私事になりますが、繊維学会に入会したのは、大学院修士課程に進学した時であったと記憶しております。学部では被服科学を学び、大学院では製紙科学・セルロース科学を専攻しました。被服科学から製紙科学への繋がりを作ってくれたのは繊維学会だと思っています。学部の恩師、大学院の恩師ともに繊維学会に所属されており、その繋がりから紹介して頂きました。大学院修了後は、国立印刷局にて紙幣の偽造防止技術(製紙・印刷技術)について研究していた時期もありました。被服と製紙ですと、異なる学問分野だと感じられる方も多いのかもしれませんが、いずれも繊維製品であり、物性や機能発現のメカニズムは同じ原理に基づくことが多いです。私は、学んできた製紙科学・セルロース科学・印刷科学の知識・経験を元に、現在、被服材料学分野の研究をしています。実際には、これらは大変近い学問分野だと私は思っていますが、不思議なことに、研究者間の交流が少ないように感じています。それぞれの分野の研究者が集う異なる学会に参加してきましたが、目的が異なると、同じような材料の研究でも、異なる切り口からアプローチをしています。異なる切り口の異分野の研究を聴講することで、新しい知見を得て、新たな研究の芽が出ることがあります。「新分野開拓」について、何もないところから新しいことを創り出すのは大変ですが、異分野融合・異分野交流からの新分野の創出は、それほど難しいことではないかもしれません。繊維学会には、繊維学に関わる川上から川下までの学問分野が含まれていますが、残念ながらこれまでは、異分野交流が行える場が少なかったように感じています。企画担当としましては、今後ぜひ異分野交流の場となる催事の提案を行っていきたいと考えております。なお、現在合併案を協議している繊維系他学会には、繊維学の川中、川下の学問分野がさらに多く含まれています。
日本の人口は減少の一途を辿っており、若者の人数は減少していきます。繊維学会会員の人数も減少を続けていくと考えられます。繊維産業に限らず、未来を担う若手を育てていくことは、学術と技術の伝承のために必要不可欠なことでしょう。繊維学会には、若手研究委員会があり、大変活発に活動されています。毎年、講演会・見学会からなる若手交流セミナーを開催し、産官学の若手研究者間の交流をされています。また、秋季研究発表会で若手産官学交流セッションを開催し、新進気鋭の若手研究者の発表を集めていますが、これはまさに異分野交流でしょう。これからの時代を担う若手研究者が、活発に活動を展開していることを大変頼もしく感じると共に、彼らに過度な負担をかけずに、催事開催ができるような運営体制を整備していくことが必要であると、切に感じています。また、秋季研究発表会では高校生セッションを開催していますが、大変レベルの高い研究発表も多くあります。ぜひ多くの会員の皆様に聴講して頂きたいです。未来の繊維研究者のたまごを発掘する、また、繊維学や繊維業界に興味を持ってもらうためにも、高校生と学会との交流の場を、さらに広げていきたいと希望しております。
繊維学会を通して、学生時代の仲間に再会したり、繊維の研究が大好きな仲間たちのコミュニティに参加する楽しさから、学会に参加をし続けてきました。学会というのは、同じ目的意識をもち、同じ興味の探求をする人達の集まりであり、楽しいコミュニケーションがとれる場であると思います。未来末永く、そのような心躍る集いの場を継続できるよう、学会の発展に尽力したいと思っております。
濱田 仁美(東京家政大学 教授)
*繊維学会誌2025年5月号、時評より
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