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サーキュラーバイオエコノミーを考える
Exploring Circular Bioeconomy
本年4月13日から 184日間、大阪市の人工島「夢洲」で、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催された2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)は大変な成功裏に幕を閉じました。本万博では、人類が生態系全体の一部であることを真摯に受け止めるとともに、地球規模でのさまざまな課題に対する解決策への取り組みと持続可能な未来の構築を目指した社会経済システムの変革に資する新たな科学技術の紹介がなされました。その根底にあるのは「循環」と「持続可能性」を目指したサーキュラーバイオエコノミー(循環型共生経済)の確立であると思います。
これまで人類は、大量生産・大量消費・大量廃棄と一方向に進むリニアエコノミー(線形経済)により発展してきました。しかし、このままでは石油やレアメタルなどの有用資源の枯渇、温暖化やプラスチックごみによる地球環境破壊、発展途上国と先進国との社会的不平等が増大するばかりでした。そこで、あらゆる段階で資源投入量や消費量を抑えて可能な限り資源の無駄遣いをなくし、最終的には資源を循環させることで廃棄量を減らすことを目指した「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が提唱されました。
一方で、石油・石炭・天然ガスといった化石資源を用いた化成品およびエネルギー生産システムから脱却し、再生産可能な生物資源(バイオマス、廃棄物資源など)を用い、バイオテクノロジーを活用して持続可能な資源循環型の新たな産業と経済活動の創出を目指した「バイオエコノミー」の重要性が提言されました。
サーキュラーバイオエコノミーは、「サーキュラーエコノミー」と「バイオエコノミー」の両方の概念を取り入れた言葉で、バイオテクノロジーなどの生物の力を借り、自然と調和しながら人類も豊かになれる持続可能な経済の構築を目指しており、日本語では「循環型共生経済」と訳されています。
フィンランドに本拠を置く欧州森林研究所(European Forest Institute(EFI))は、サーキュラーバイオエコノミーのための10項目の行動計画を提唱しています*。
1.持続可能なウェルビーイングに焦点を当てる
2.自然と生物多様性への投資を推進する
3.繁栄のための公平な分配を実現する
4.土地・食料・保健システムを包括的に再考する
5.産業部門の変革を推進する
6.環境に配慮した視点で都市を再構想する
7.有効な規制の枠組みを構築する
8.投資と政策においてミッション重視のイノベーションを提供する
9.資金へのアクセスを可能にし、リスク対応能力を強化する
10.研究と教育の強化と拡大を図る
* Investing in Nature as the true engine of our economy: A 10-point Action Plan for a Circular Bioeconomy of Wellbeing, EFI, https://doi.org.10.36333/k2a02
自然と共生しながら経済の発展を目指すためには、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロ」にすること)やネイチャーポジティブ(自然再興:自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、回復させること)も同時に推進しなければなりません。今後、サーキュラーバイオエコノミーを遂行するためには、持続可能なバイオマス資源の獲得や地球環境との共生が重要であることから、一見、繊維とは離れた分野である森林研究などとも情報交換を行う必要が出てくるかもしれません。
繊維の種類を思い起こしてみると、綿や木材の成分であり地球上に最も豊富に存在するセルロースや動物繊維である羊毛やシルクなどの天然繊維、天然繊維を化学的に修飾した半合成繊維、石油から作られる合成繊維に分類されます。合成繊維に必要な主要モノマーであるエチレン、エチレングリコール、テレフタル酸などに加え、様々なC2~C5化学原料が、微生物発酵合成を含め、既にバイオマスから作られる技術開発が進んでいます。さらに、リサイクルの場面でも繊維から繊維へのマテリアルリサイクルと熱分解法によるケミカルリサイクルも同時に推進されています。今後は、繊維製品のライフサイクル全体を通して、サーキュラーバイオエコノミーの推進が益々求められると思います。
さまざまな分野で利用される繊維製品に対してサーキュラーバイオエコノミーの構築を実現するためには、異分野融合、学際的組織体の構築、他学協会との連携、産学協創が必要不可欠です。今後、国際的な一つの指標になると思われるサーキュラーバイオエコノミーを先導できる人材の育成も併せて必要です。我々の研究がサーキュラーバイオエコノミーとどのように結びついているかを今一度問うともに、学会としても繊維産業を含む全体の方向性をサーキュラーバイオエコノミーの観点から見直し、整理・発信することが求められると思います。
皆さん、繊維をサーキュラーバイオエコノミーの観点からも考えてみませんか。
岩田 忠久(東京大学 教授)
*繊維学会誌2025年11月号、時評より
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